健康志向が高まるにつれて、有機野菜やオーガニックという言葉がよく聞かれるようになりました。しかし、実際にどのような食品を指すのかわからないまま、なんとなく体に良さそうだからと選んでいる人も多いのではないでしょうか。言葉の正しい意味を知ることは、日常的な食生活をより健康的なものにすることに繋がります。有機野菜の定義や分類について、正しい知識を身に付けましょう。
この記事の執筆者・監修者
管理栄養士 佐々木優美 先生
講師業の傍ら、料理や健康に関する記事の執筆やレシピ作成をしています。私の理想は心も体も満たせる料理を作ることです。野菜をたっぷり使った彩り豊かな健康食が好きで、なるべく植物性食品を多く摂れるように心がけています。忙しい生活を送る人が多い時代ですが、食事から体をいたわることの大切さも伝えていきたいです。
有機野菜とはどんなもの?
簡単に説明をすると、有機野菜とは化学肥料を使ったり、遺伝子組み換え技術を使用したりせずに、栽培された野菜のことをいいます。オーガニック野菜も有機栽培をされたもので、広い意味では有機野菜と同じです。
有機栽培以外の栽培方法は、まず農薬や化学肥料を使う一般的な栽培方法として慣行栽培があります。次に、農薬や化学肥料の使用量が規定の5割以下に制限されている特別栽培という栽培法もあります。
では、有機野菜を購入したいときはどのように選べば良いのでしょうか。有機野菜には有機JASマークの印が付いていますので、野菜を購入するときは、パッケージやラベルをチェックしてみると良いでしょう。この有機JASマークは、農林水産省が定めたJAS規格に適合していることを表しています。
農林水産省では、有機農産物を次のように定義しています。
1.有機農産物にあっては、堆肥等で土作りを行い、化学合成肥料 及び農薬の不使用を基本として栽培
2.有機畜産物にあっては、有機農産物等の給与、過剰な動物医薬 品等の使用の制限、動物福祉への配慮等により飼養
3.これらの生産に当たっては、遺伝子組換え技術は使用禁止
引用:農林水産省「有機JAS制度について」
有機野菜やオーガニックは健康を意識している層に人気のため、「有機」という表現が用いられる機会が増えていますが、有機JASマークのない状態で「有機」と表記することは法律違反となっています。
*有機JASマーク
残念ながら、そのことを知らないまま、有機を謳って販売していることもありますので、商品を購入するときは必ず有機JASマークが付いているかどうかをチェックするようにしましょう。
オーガニックと有機野菜の違いは?
オーガニックは有機野菜とほぼ同じ意味で用いられることが多いようです。異なる点は、オーガニックは基準を定めていない水産物や繊維、化粧品などに使用されることがあるという点です。さらには、形のあるものだけではなく、音楽やライフスタイルにもオーガニックという言葉が用いられる機会が増えてきました。有機野菜とオーガニック野菜に違いはほぼありませんが、オーガニックという言葉は、有機よりも幅広く用いられ、形容詞のような意味合いで使われることもあることを知っておきましょう。オーガニック商品を販売する場合は、表示責任者が根拠を持って表示することになっています。
有機野菜を選ぶときの注意点は?
これまでの解説で、自分が思っていた有機野菜と認識が異なる部分があったかもしれません。それでは、有機野菜を選ぶときに注意しておきたいポイントを確認してみましょう。
農薬が使われていることもある
有機野菜と聞くと、農薬を使っていないと思ってしまいがちですが、これには落とし穴があるので注意が必要です。農林水産省の定義には禁止された農薬や化学肥料を使用しないと書かれています。つまり、すべての農薬を禁止しているというわけではなく、特定の農薬や化学肥料に対して制限をつけているのです。
では、どのような肥料を使用して有機野菜が栽培されているのかというと、植物性の油カスや動物性の魚粉などです。これらは有機物肥料と呼ばれており、一般的な慣行栽培に使用されている化学肥料や農薬は無機質肥料と呼ばれています。JASが認定している農薬は31種類あり、これらは有機栽培に使用しても問題ないとされています。有機野菜を選ぶのであれば、完全に無農薬であるという意味ではないことを知っておきましょう。
値段が高くなる
日本の有機野菜の浸透率は海外に比べると低くなっています。有機野菜は手間や時間がかかるため、生産性が低くどうしても値段が高くなってしまうのです。値段が高いと購入できる人も限られてきます。特に野菜を毎日食べるのであれば、食費が高くなってしまうことで続けられない可能性も出てきてしまいます。健康のために有機野菜を食べたいけれど、高くて続けられないというのが現実的に考えられる問題点です。
また、農家の立場から考えると、有機野菜ばかり作っていると、一般的な市場に流通させる野菜を作ることが難しくなってきます。そうなってしまうと、市場に流通する野菜の量も減り、家庭や外食産業など様々な部分にまで影響を及ぼしてしまうこともあります。有機野菜は健康的で体に優しいものかもしれませんが、普通の食事にまで影響が出てしまっては野菜が食べられなくなる可能性があり、かえってマイナスになってしまうこともあるのが難しいところです。
有機野菜は本当に体にいいの?
健康のためにと思って有機野菜を選ぶ人が多いと思います。確かに有機野菜を食べると味が濃く、なんとなく体に良さそうな印象を受けるかもしれません。実際のところはどうなのか、有機野菜のメリットを見ていきましょう。
化学物質を避けることができる
有機野菜は、通常の野菜と比較すると自然の形に近いもので、化学物質を体の中に取りこむリスクは減ります。化学物質は、形をきれいに整えたり、成長を均一にしたりと野菜を合理的に栽培するのには適していますが、体への影響が気になる人もいるかもしれません。決して化学物質が体に悪いものであるというわけではありませんが、少しでもケミカルな物質の摂取量を減らした人には、有機野菜が向いているでしょう。
濃厚な味を堪能できる
有機野菜は自然に任せたスピードで野菜を栽培します。一方で、慣行栽培と呼ばれる一般的な方法で育てられた野菜は、流通を安定させるために成長速度を人工的に速めていることもあります。そのため、一般的な野菜は旨味が凝縮されないまま味が薄い状態で市場に並ぶことになります。有機野菜を食べた時は、その味の違いに驚くことでしょう。例えば、にんじんは果物のように甘く、大葉であれば独特の香りが強く感じられます。有機野菜と一般の野菜の違いは、味や風味にも現れるのです。
栄養価が高くなる
有機野菜は、ビタミン類やポリフェノールなどの有効成分を多く含んでいる傾向にあります。ビタミンCにおいては、通常の野菜よりも1.2〜2倍も多く含んでいるとの報告もあります。これは肥料が無機ではなく、有機であることから、微生物が有機肥料を分解するときに、土壌が含むビタミンCの量が増えるからだと考えられています。しかし、まだ有機野菜についての研究データが少ないことから、すべての有機食品が栄養価に優れているとは断定できない部分があります。栄養価の評価は食品の個体による違いや、季節や産地ごとに分けて比較する必要がありますし、食品によって肥料を使う量も異なるからです。
地球に優しい
環境の変化により、生態系が乱れてしまうことがあります。近年では、SDGsのように環境保全の視点に立ち、物事を考えなければならない機会が増えました。有機野菜は化学的な肥料を使用しないため、土壌汚染や大気汚染から環境を守り、私たちの健康や健全な食物連鎖を支えてくれます。有機野菜を選ぶことは、自分のためだけではなく、地球に優しい生活にもつながっていくでしょう。有機野菜やオーガニックの目的は、人工的な手を加えて、食べるものを育てるのではなく、自然な形で食物を栽培し、自然のままの健全な食物連鎖を目指すことにあるといえます。
体にも地球にも優しい生活を
有機野菜は特定の農薬や化学的な肥料を使用せずに栽培された野菜です。高価ではありますが、濃厚で甘味のある味わいや一般の野菜よりも高めの栄養価であること、そして環境保全に繋がるなど多くのメリットがあります。言葉の意味を正しく理解して、食生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。