食生活や食の志向を表すヴィーガンとベジタリアン。どちらも野菜好きだったり肉を食べなかったりするようなイメージを持たれているかもしれませんが、正確な意味合いを理解している人は少ないかもしれません。食に関する用語は多く、日々新しい言葉が出てきますので、自分に関わらないものは知る機会がなければ理解を深めることは難しいでしょう。ここでは、ヴィーガンとベジタリアンの違いについて、詳しく解説していきます。
この記事の執筆者・監修者
管理栄養士 佐々木優美 先生
講師業の傍ら、料理や健康に関する記事の執筆やレシピ作成をしています。人によって料理に求めるものは違いますが、私の理想は心も体も満たせる料理を作ることです。野菜をたっぷり使った彩り豊かな健康食が好きで、なるべく植物性食品を多く摂れるように心がけています。忙しい生活を送る人が多い時代ですが、食事から体をいたわることの大切さも伝えていきたいです。
ヴィーガンとベジタリアンの大きな違い
まず、ヴィーガンとベジタリアンの大きな違いについて見ていきましょう。
簡単に説明をすると、ベジタリアンという大きなグループのなかに、ヴィーガンが含まれています。一般的にはどちらも「肉を食べず、代わりに植物性の食品を食べる人たち」というイメージが強いかもしれませんが、実際にはベジタリアンにはさまざまな種類があり、中には肉を食べる人もいます。後ほど説明しますが、ベジタリアンは必ずしも植物性食品ばかりを摂取しているわけではないのです。
食の志向は人それぞれ異なり、食事に興味がない人や、反対にこだわりや想いが強い人など様々です。また、国によって使われる食材や調味料が違ったり、同じ国でも宗教や家庭、個人の嗜好によって食生活が違ったりと、食事は文化や生活を反映するものとなっています。
食文化の違いはときどき争いごとの原因となってしまうこともありますが、それぞれの違いを理解しあえる世界を作っていけることが理想的ですね。ベジタリアンやヴィーガンは少数派ですが、今後は増えていくと考えられていますので、今回はその違いについてしっかりと理解をしましょう。
ベジタリアンの分類を詳しく知ろう
そもそも、ベジタリアンという言葉は野菜のvegetableからきているものではなく、ラテン語のbegetus(ベジタス)に由来しています。begetusは「活気がある、生命力にあふれた」という意味で、1847年に発足した英国ベジタリアン協会で初めて使われた言葉です。
ベジタリアンは必ずしも完全な菜食主義というわけではなく、部分的に肉や乳製品を食べている人がいます。ベジタリアンは植物性食品を中心とした食生活であることは確かですが、その他の食事をどうしているかにより、さらに細かいグループに分けられるのです。今ではベジタリアンといえば一般的にヴィーガンを指す言葉となっていますが、必ずしも完全に一致するものではありません。
それでは、以下にベジタリアンの種類についてまとめていきます。ベジタリアンといってもたくさんの種類があることに驚くかもしれませんが、それぞれの内容を知ることでベジタリアンへの理解を深められることでしょう。
ベジタリアンの分類
<狭義のベジタリアン>
ヴィーガン … 完全菜食主義で動物性の食品を一切とらない。バターや牛乳など、動物からとられるものも口にしない。
フルータリアン… 思想的な理由で動物性の食品をとらない。根菜や葉野菜もとらず、果実、種子、ナッツのみを摂取する。
ホールフード… 小麦粉を全粒粉、白米を玄米というように、食品の加工や精製をできるだけ抑えたもの。調理の過程で捨ててしまう茎やヘタなどの部位も摂取することがある。
<広義のベジタリアン>
ラクト・オボ・ベジタリアン… 菜食中心だが、卵と乳製品を摂取する。
オボ・ベジタリアン… 菜食中心だが、卵を摂取する。
ラクト・ベジタリアン… 菜食中心だが、乳製品を摂取する。
オリエンタル・ベジ… 臭気の強い野菜を摂取しないヴィーガン食。乳製品を含むこともある。
<部分的なベジタリアン>
ペスコ・ベジタリアン… 魚介類を含む菜食。
フレキシタリアン… 時々菜食をとり入れるベジタリアン。
私たちが普段ベジタリアンと呼んでいるものは、実はいくつかのグループの集まりで、それぞれ食べているものが違います。共通しているのは、健康意識が高く、食に対しての想いやこだわりを強く持っていること。食事に対して意識を向けることや、考えを持って実践していくことは、とても大切なことです。
ヴィーガンはきっかけや理由に注目
それでは次に、ヴィーガンについてご説明をします。ヴィーガンはベジタリアンのなかの1つに分類され、肉や魚、卵、乳製品などの動物性の食品を一切口にしない完全菜食主義のことをいいます。
日本でもヴィーガンを公言している有名人を見かけますが、海外におけるヴィーガンの活動は、日本に比べるとよりアクティブな印象を受けます。しかし、ヴィーガンの活動は常にポジティブなものとは限りません。肉を食べる人たちとの対立や、ヴィーガン給食の是非など、時々ナーバスなニュースが話題となり議論されることもあります。
ヴィーガンが増えてきているとはいっても、その割合は世界的にみるとまだ3%しかおらず、かなりの少数派であることには変わりません。そのため、一般的には受け入れられなかったり、非難の対象となりやすかったりというのが現状です。
最近では、健康のために調整食としてヴィーガンをとり入れる人も増えてきましたが、もともとヴィーガンの人は、食だけではなくライフスタイルや思想に自分なりのこだわりを持っている人が多いようです。ひとまとめにヴィーガンといっても背景には様々なきっかけがあり、その多くは次のようなものが挙げられています。
1.環境保護
家畜を飼育するためには、広大な土地や大量の水が必要となります。人口減少が進む日本とは対照的に、世界ではどんどん人口が増えています。こうして人口が増えていくと、食料の需要が増し家畜を育てるための土地も必要になります。しかし、世界にはもうそのような土地が残ってないので、新しく開拓するためには自然を切り崩していかなくてはなりません。
ヴィーガンは肉を食べないので、家畜を飼育するために自然を破壊して農地を作ることに疑問を持っています。
2.動物愛護
動物愛護の観点からヴィーガンになる人もいます。きっかけは様々ですが、ペットを飼ったり、動物が好きで殺傷への疑問を持ったりすることが多いようです。動物愛護心の強い人は、肉を食べないだけではなくファーや革製品の使用を避けるなど、食生活以外の部分にも動物愛護の精神が表れています。
3.宗教
宗教や信仰によって動物性の食品を口にしない生活を送っている人たちもいます。大体は親の代から受け継がれていくため、生まれながらにヴィーガンであり、その生活が当たり前にあります。肉の味を知らないまま過ごしているので、途中でヴィーガンになる人たちよりも食事に対しての苦痛は少ないと考えられます。
日本でも、仏教の精進料理では動物性食品を禁じられており、ヴィーガンと通じるものがあります。お寺で行われているダイエット合宿などでは精進料理が出されています。
4.健康志向
近年増えてきているのが、健康のためにヴィーガンを実践する人たちです。ヴィーガン食は動物性脂質を含まないので、摂取カロリーを抑えることができます。また、毎日ではなく期間限定でヴィーガンになる人も多くおり、ヴィーガンの定義が少々変わってきているようにも見受けられます。
近年では宅配食やヴィーガン仕様の飲食店が広まり、以前よりもヴィーガン食を身近に感じられるようになってきました。大豆ミートや豆乳クリームなど、ヴィーガン料理によく使用される食材が手軽に購入できるようになったことも影響していると考えられます。
ベジタリアンとヴィーガンは似ているようで異なる
ベジタリアンとヴィーガンは同じものだと思われがちですが、実際は違います。ヴィーガンはベジタリアンの一部に分類されるもので、ベジタリアンには肉や魚、卵などの動物性食品を食べる人もいることを知っておきましょう。
また、ヴィーガンは人によってきっかけや背景が異なります。食事に対する想いや考え方は人それぞれ違うので、お互いが理解を示してわかり合うことが大切です。